「目指すポートフォリオは何か」という質問をいただくことがあります。私たちは、成長が見込める領域で、強みが発揮できる「ど真ん中」の事業に経営資源を集中させます。一方、いつまでも強みを維持できるかは分かりません。世界で起きている変化をしっかり見極め、成長機会を捉えていく。強みを発揮できる領域を広げるとともに、新たな強みを育てていく。そうすることで、持続可能でレジリエンスのある事業ポートフォリオを創っていく、そのようにお答えしています。
その「ど真ん中」の経営資源の投下を進めてきたのが、米国航空機リース会社の買収やSCSKの完全子会社化です。特にSCSKは、当社のデジタル・AI戦略(DAIS)を実行していく上で、極めて重要な存在です。SCSKの専門性と、住友商事グループが持つ約900社の事業現場、10万社規模のグローバル顧客基盤を掛け合わせることで、住友商事グループ全体の成長を加速していきます。
また、次の勝ち筋を作っていくことも重要です。現在の競争優位をさらに磨くとともに、将来の収益の柱となる事業の育成にも取り組んでいます。そのため、成長可能性のある新たな分野には、当初投資計画の20%を目処に投資を行っています。今の強みを伸ばしながら次の勝ち筋を育てる。その積み重ねが、中長期的な成長につながります。
そして、こうした事業ポートフォリオ変革を支えるのが、各組織の「自律」です。自分たちの事業を一番よく知る現場が、オーナーシップを持って成長性とリスクを検討し、戦略を策定して実行していくことが大切ということです。将来性があるなら粘り強く取り組む。可能性がないなら、しがみつかない。
こうした取り組みを通じて事業ポートフォリオを進化させ、当期利益6,000億円台の先にある成長を実現していきます。
アンバトビーニッケルプロジェクトは、当社が2005年の社内検討開始から長年にわたり向き合ってきた案件です。私は、2019年から資源・化学品事業部門長として、2024年からは社長として、このプロジェクトに直接関わってきました。累計で大きな損失を計上し、ステークホルダーの皆様にご心配をおかけしたことを、経営として厳粛に受け止めています。
その一方で、本プロジェクトは約9,000人の雇用を生み出し、マダガスカルの経済や地域社会に大きな役割を果たしてきました。だからこそ私たちは、事業の持続可能性と社会的責任の両方を追求してきました。2024年からは、事業継続、売却、閉山、維持保全、倒産等、あらゆる選択肢の検討を開始しましたが、常にその意識を最優先に持っていました。結果として、技術力と資金力を兼ね備えたEssenwood Partners社主導のコンソーシアムへの事業承継を選んだのは、経済面でも社会的意義の面でも最善の選択だったと考えています。
アンバトビーは、ニッケル鉱石を採掘するだけの単純な鉱山事業ではありませんでした。マダガスカルでは、資機材、原料、エネルギー等の産業が整っておらず同国内で十分に調達することができません。本事業では、鉱山での採掘だけでなく、精錬まで行うことから、硫酸プラント、水素プラント、自家発電、港湾や物流等のインフラを、自ら建設・運営していかなければなりませんでした。そのため、どこか一つに不具合が生じれば全体に影響が及ぶ、極めて複雑なプロジェクトでした。その難しさと向き合いながら、操業の安定化や事業基盤の強化に粘り強く取り組んできました。そうした私たちの努力を、何とか事業の継続という形で承継したかった、そしてそれを実現することができたと考えています。だからこそ、私はこの売却を単なる撤退とは捉えていません。経済的な価値だけでなく、地域社会への責任も果たしながら事業を承継できたことは、住友の事業精神を体現したものだったと考えています。こうした当社の事業に対する姿勢を評価して、一緒に事業をやりたいと声をかけてくれるグローバル企業がいくつか出てきており、当社に対する信頼にもつながっていると感じています。