解しやすいように再整備することです。一方で、改善すべき課題も残されています。例えば、ROICがWACCを下回る案件が一定数存在しますが、それをどのような粒度で取締役会がモニタリングすべきかについては、執行側への適切な権限委譲とのバランスも含めて、常に悩ましいテーマです。また、投資した案件だけでなく、投資を見送った案件についても、その判断が適切だったのかを精査し、逸失利益の観点から振り返る仕組みも今後さらに充実させていくことが重要だと考えています。
朝倉 モニタリングでは、投資時に描いた仮説どおりに進捗しているかを検証することが基本です。しかし、事業ポートフォリオをダイナミックに入れ替えていくためには、その前提となる市場環境や事業環境そのものが変化した場合も見据えた、多面的な仮説検証が欠かせません。難易度の高い取り組みではありますが、今後はこうした視点を一層強化していく必要があると考えています。また、地政学的リスク等を想定した最悪なシナリオのもとで、当社のバランスシートがどこまで耐えられるのか、その許容範囲をあらかじめ把握しておくことも重要な課題です。
大槻 私も同感です。地政学的リスクや経済安全保障リスクといった不確実性に加え、金利上昇が、資金調達コストやWACC、当社製品やサービスへの需要等に及ぼす影響まで含めて、多角的に検証していく必要があります。将来起こり得るさまざまなクライシス・シナリオを想定し、それに対するストレステストをさらに高度化していくことが、今後のリスクマネジメントにおいて重要になると考えています。
朝倉 上場企業では基本的に資産は動かすことが前提です。当社がリースや不動産事業等のアセット型ビジネスでアセットを動かして稼ぐ資産回転型のビジネスを拡大・強化していること、及び長期的観点で資産入替によりポートフォリオを変えていくことは必然であり、経営陣がコミットしていることは安心材料です。出口を意識して投資することで、結果として経営の選択肢を持つことができます。売るオプション、継続保有するオプション、買うオプション等、いかに幅広く確保できるかが重要です。そのためには、幅広いステークホルダーからの信認が必要ですので、具体的なアウトプットを定量的にお示ししながら、市場からの評価をさらに上げていかなければなりません。
大槻 総合商社のビジネスモデルは、かつてのトレードからインベストメントが主体になり、その投資はインカムゲイン中心のモデルから、今は出口も含めたトータルリターンを狙う形への転換期と理解しています。ビジネスによって時間軸はさまざまですから、その時点時点のトータルリターンを最大化することの難易度はかなり高いと思います。また、M&Aについては相手もある話ですので、買収後のPMIにおける経営やリスクマネジメント機能の高度化が必須になります。また、売却については、自分たちにタイミングや条件等の裁量があるだけに、投資に比べ、より判断が複雑になります。こうした事業買収や売却に関して実効性あるモニタリング体制をいかに構築していくかが、今後の課題です。
朝倉 これから次期中計の議論が本格化しますが、しっかりとキャピタルアロケーションの議論を深めていきたいですね。事業ポートフォリオ変革の方向性、それを踏まえた適正なレバレッジや株主還元の考え方をどうするのか。総合商社の中で相対化されるのではなく、当社グループとしての自律的な意志を示した中計になると良いと思っています。
大槻 中計は、投資家との具体的なコミュニケーションを図っていくためにも必要だと思いますが、長期的なあるべき姿に関する議論をより深めた上で策定していけたらよいと思います。
朝倉 当社の取締役会では、社外取締役の意見も積極的に取り入れながら、建設的で率直な議論が行われています。こうした実効性の高いガバナンスのもとで、私たちは短期的な市場の変動に過度に左右されることなく、5年、10年先を見据えた企業価値の向上を常に意識しています。社外取締役として、中長期的な視点から経営を監督し、「長期に保有して良かった」と評価していただける企業であり続けられるよう、その役割を果たしていきたいと考えています。
大槻 この2年間で、当社グループは事業ポートフォリオやガバナンス、投資規律等、さまざまな面で着実に変革を遂げてきました。過去の失敗があったからこそ、他社とは異なるものを得ている。そして、これをもとに、変えるべきところを着実に変えてきたと私は感じています。これからは、具体的な成果を示していくことが重要です。私たち社外取締役も、執行側の挑戦を後押しするとともに、その成果を株主・投資家の皆様から寄託を受けた者としてしっかりとモニタリングしていきます。今後はぜひ、フォワードルッキングな視点で、当社グループの変革の成果と、今後の成長をご覧いただければと思います。